奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の院試は、自分の専門知識や研究への考えを、その場の質問に合わせて説明する力が問われる試験です。2027年入学の博士前期課程では、情報科学・バイオサイエンス・物質創成科学の3区分があり、いずれもオンライン面接を中心に選考します。ただし、数学の口頭試問がある区分と、小論文をもとに発表する区分では、準備する内容がかなり違います。
「筆記試験がないから簡単」「英語がこの点数なら合格できる」と考えるより、今の自分に足りない準備を区分ごとに見る方が、受験するかどうかを判断しやすくなります。計算は得意でも言葉で説明する練習が必要な人もいれば、研究経験はあるものの、専門外の相手に研究目的を伝えるところで苦労する人もいるでしょう。
本記事では、2026年10月2日に確認した公式資料を使い、2027年春学期入学を中心とする博士前期課程の試験を整理します。高専推薦・協定大学特別推薦と博士後期課程は対象外です。過去の入学状況は2025年度の公表値、これからの試験制度は2027年募集要項として、年度を分けて説明します。
奈良先端科学技術大学院大学の難易度は、倍率だけでは決まらない
NAISTの難易度を考える出発点は、志願者が何人いるかよりも、選んだ区分で何を説明する必要があるかです。大学は面接だけでなく、小論文、成績証明書、英語スコア、受賞歴などを合わせて合否を判断します。面接の受け答えが滑らかでも、学んだ内容の理解や研究への考えが浅ければ、それを補う材料が必要になります。
公表されている「入学者数」を合格者数に置き換えない
大学の過去の入試データ・入学状況には、志願者数と入学者数が掲載されています。2026年10月2日に確認できた最新年度は2025年度で、博士前期課程の数字は次のとおりです。
| 試験区分 | 2025年度の志願者数 | 2025年度の入学者数 |
|---|---|---|
| 情報科学 | 366人 | 179人 |
| バイオサイエンス | 176人 | 127人 |
| 物質創成科学 | 174人 | 98人 |
出典の基準日は2025年10月1日です。この表の右列は合格者数ではありません。合格後に別の進路を選ぶ人がいれば、合格者と入学者の人数は異なります。そのため、366人を179人で割った数字を「実質倍率」としたり、179人を366人で割って「合格率」と呼んだりすることはできません。
同じ公式ページには春学期の試験回別データもありますが、こちらも志願者数と入学者数の組合せです。第1回と第3回の数字の大小だけで、後の回ほど受かりやすいとは判断できません。入学者数の表は、大学がどの程度の規模で学生を受け入れているかを見る資料として使い、自分の合格可能性とは分けて考えるのが適切です。
外部受験の不安を、準備できる課題に置き換える
NAISTは学部を置かない大学院大学です。学部から同じ大学の大学院へ進む形とは異なるため、「外部生だから」という言葉だけで難易度をつかむことはできません。まずは、自分が学んできた分野と受験区分の出題内容がどのくらい重なるかを見ると、対策の見通しが立ちます。
たとえば情報科学区分を考えているなら、大学で履修した線形代数や解析を見直し、答えを出せるだけでなく途中の考え方を話せるか試してみます。バイオや物質を考えているなら、自分の卒業研究に使う方法の原理を説明してみる。このような小さな確認の方が、出身大学名から難易度を推測するよりも、これから使う時間を決める材料になります。
2027年入試は3区分で対策が異なる
2027年博士前期課程の募集要項では、3区分共通で1人20分程度のオンライン面接とされています。日本語または英語を出願時に選択します。情報科学の古い案内には約30分という説明も残っていますが、ここでは現行年度の募集要項に合わせています。

| 試験区分 | 主に問われる内容 | 小論文の持込み |
|---|---|---|
| 情報科学 | 数学の口頭試問、小論文と出身専攻を踏まえた情報科学関連の質問 | 小論文の写しは不可 |
| バイオサイエンス | 小論文に基づく5分程度の発表と、研究に関連する基礎知識の口頭試問 | 写しの持込み可 |
| 物質創成科学 | 小論文に基づく5分間の発表と、物質科学関連の15分程度の口頭試問 | 小論文のみ可。記載した図や式を説明に使える |
この違いは、最後の数日だけ練習方法を変えれば済むものではありません。情報科学なら、資料を見ずに自分の小論文を説明する準備と数学の演習が必要です。バイオ・物質なら、決められた時間で研究の筋道を伝える練習と、そこで使う専門知識の復習がつながります。
研究したい内容から区分を選ぶ
試験区分を選ぶ際には、得意科目だけでなく、入学後に取り組みたい研究とのつながりも見ます。情報科学区分を受けた人が選べる研究室には、高度情報専門人材育成コースの認定を受けたバイオ・物質の研究室もあります。ただし、すべての研究室を選べるわけではありません。対象はコースと試験区分の公式案内で確認できます。
「情報系の試験なら受けやすそう」という理由だけで決めてしまうと、希望する研究室がその区分の対象に入っていないことがあります。研究テーマ、選べる研究室、試験で問われる基礎知識を一緒に並べてから、区分を絞る順番が自然です。同じ試験回に複数区分へ出願することはできないため、迷いが残る点は出願前の見学や相談で整理しておきます。
募集人数と面接を受けられる条件を分ける
2027年の募集人員は全体で390人で、区分ごとの目安は情報科学175人、バイオサイエンス125人、物質創成科学90人です。これらには秋学期や推薦選抜の人数も含まれます。春学期の各回で毎回この人数を募集する、という意味ではありません。
また、志願者が区分ごとの目安の2倍に達したときには、事前の書類選抜を行う可能性があります。面接だけに力を入れるのではなく、出願時点の小論文や証明書も選考に使われるものとして準備すると、締切直前の慌ただしさを減らせます。
情報科学区分は、数学を解きながら説明する練習が必要
情報科学区分では代数・解析などの数学を口頭で問われます。紙の試験で解答を完成させるのとは違い、どの条件に注目し、どの考え方で進めるのかを相手に伝える必要があります。普段の演習で解けている問題でも、声に出すと定義を曖昧に覚えていたことに気づくことがあります。
公式の出題範囲を、手持ちの教材に対応させる
現行要項は、代数についてストラングの指定教科書第4版の第1〜7章、解析についてラングの指定教科書第5版の第1〜15章を範囲として示しています。日本語訳も案内されていますが、版によって章立てが違うため、手持ちの本を使うなら目次と内容を照合する作業が先です。書名だけを見て、別の版の同じ章番号まで読めば足りると考えると範囲がずれます。
最初から難問を大量に解くより、授業で扱った定義・定理と基本問題の対応を整理すると、復習の順番を決めやすくなります。たとえば計算結果だけ覚えている箇所は、なぜその操作をしてよいのかまで戻る。使える条件を言葉にできない定理は、簡単な具体例と一緒に説明してみる。教材を増やすかどうかは、その復習で埋まらない部分が見えてから判断できます。
解答の途中を相手に渡す
練習では、問題を見てすぐに計算を始める前に「求めるもの」「使えそうな条件」「最初に試す方法」を短く話します。式を書く間ずっと説明し続ける必要はありませんが、何を考えているのかが相手に伝わる区切りを作ると、解答が行き詰まったときにも状況を整理できます。
情報科学領域の公式Q&Aも、答えだけでなく考え方や説明、関連する質問への応答を見ると説明しています。練習相手には正解を採点してもらうだけでなく、「その式を使える理由は」「条件が変わるとどうなる」と聞いてもらうと、理解の抜けを探せます。自分一人なら解説を閉じた状態で録音し、説明が飛んでいる箇所を聞き直す方法もあります。
口頭で学力を伝える準備の全体像は、院試の面接対策も参考になります。NAISTでは、その一般的な受け答えの準備に加えて、数学と自分の小論文を接続して練習することが中心になります。
小論文と研究の説明は、書類と面接を一緒に仕上げる
NAISTの小論文は、これまで学んだ内容と、入学後に取り組みたい研究の2つを、図表を含めてA4用紙2枚にまとめるものです。現行要項では1枚は不可とされており、2つの課題の分量配分は本人に任されています。各区分の様式例は公式の募集要項・テンプレートページから確認できます。

経験を列挙するだけで終わらせない
「この授業を受けた」「この装置を使った」という記録だけでは、何を理解し、何を考えたのかが伝わりにくくなります。卒業研究なら、解きたい問題、そのために選んだ方法、得られた結果と残った疑問をつなげます。まだ結果が出ていない段階なら、目的と方法、どの結果が出れば何を判断できるかを説明すると、研究の現在地を示せます。
たとえば、測定を繰り返している研究なら、操作手順を細かく書く前に、何を比較するための測定なのかを示します。そのうえで、なぜその測定法を選んだのか、誤差や条件の違いをどう扱うのかを整理すると、面接で掘り下げられても説明の土台が残ります。成果を大きく見せる文章より、自分が担当した範囲と判断したことが分かる文章の方が、受け答えの準備にもなります。
入学後の研究は、研究室の紹介文を言い換えるだけでは自分の関心が見えません。興味を持った問題と、その研究室の方法や成果との接点を一つ示し、今ある知識から何を学び足したいかにつなげます。構成が散らばるときは、研究計画書のよくない例と直し方にある、問い・方法・実現可能性の点検が役立ちます。ただしNAISTでは、研究計画書一般の字数ではなく、指定された2課題・2枚の形式に合わせます。
バイオは研究の原理、物質は図や式の説明まで練習する
バイオサイエンス領域の入試案内では、自分の研究を専門外の相手にも伝わるよう説明することが示されています。専門用語をなくすという意味ではなく、なぜその現象を調べるのか、手法が何を測っているのかを言葉で補うことです。普段は同じ研究室の人だけで通じる説明も、前提を一段戻して話してみると、分かりにくい部分が見えてきます。
物質創成科学区分では、小論文に載せた図や式を発表の説明に使えます。図を見せれば伝わると思わず、軸、比較している条件、そこから読み取れることを順番に説明する練習をすると、短い発表でも研究の筋が通ります。物質創成科学領域の入試情報も併せて読むと、領域が扱う研究と自分の専門との接点を探せます。
発表時間を測る際には、早口で原稿を読み切れたかより、研究目的と方法が相手に残るかを見ます。5分間を背景説明だけで使ってしまうなら、背景を一段削り、自分が何をしたかへ早く進む。逆に結果ばかり並ぶなら、最初に何を明らかにしたい研究なのかを足す。この調整を小論文の推敲と一緒に行うと、書類と口頭説明が食い違いにくくなります。
英語スコアは「合格ライン」と提出期限を混同しない
NAISTの現行要項では、英語スコアがなくても面接は受けられますが、英語の得点は0点になります。提出できる試験にはTOEIC、TOEFL、IELTS、Duolingo English Testがあり、TOEICのIPテストなども記載されています。使える種類と証明書の形式は、募集要項の一覧で照合できます。
過去の平均点は、今の足切り点ではない
情報科学領域のQ&Aには、過年度の合格者の英語平均点が掲載されています。しかし、ある年度に入学試験を受けた集団の平均は、次年度の最低合格点とは異なります。自分の点数が平均を下回るかどうかだけで受験を諦めたり、上回ったから他の準備を止めたりする材料にはなりません。
英語対策にどれだけ時間を使うかは、現在のスコア、再受験できる日、数学や研究説明の準備状況を一緒に見て決めます。たとえば提出できるスコアがまだないなら、まず証明書が間に合う受験機会を確保する。一方、小論文を自分の言葉で説明できない段階なら、英語だけを長時間続けても面接の課題は残ります。合格ラインを推測するより、未提出の項目と理解不足の項目をなくす方が、準備の目的をはっきりさせられます。
出願後の追加提出にも別の締切がある
出願期間中は英語スコアのデータをアップロードします。出願後に提出する場合は、所定の届出書とスコアのコピーを郵送するなど、募集要項に定められた方法へ変わります。2027年春学期第2回は2026年10月21日、第3回は2027年3月5日が後日提出の必着期限です。
ここで管理するのは試験日だけではありません。スコアが確定する日、証明書を入手できる日、大学へ届く日までをつなげて見ます。とくに外部試験の実施日から期限までが近いときは、点数を取る計画と届ける計画の両方が必要です。院試の英語スコア提出期限の考え方を使って逆算し、NAISTの指定日と提出方法を予定表へ落とし込みます。
研究室選びでは、合格と希望研究室への配属を分けて考える
大学に合格できるかと、希望する研究室で研究できるかは、別々に確認したい点です。研究内容が自分の希望に合っていても、研究室の受入人数や配属方法によって、その後の選択が変わるためです。難易度を調べる段階で研究室の情報も読むと、「入学できればよいのか」「特定の研究テーマを最優先するのか」を整理できます。
情報科学領域は2027年春入学からの配属方法を読む
情報科学領域の公式案内では、2027年春入学以降、出願時に希望研究室を1つ選び、入試結果と研究室の定員を踏まえて、合格者へ配属優先権を通知する仕組みが示されています。希望研究室の定員を超える場合は待機リストとなり、最終的な配属は入学後のアンケートも踏まえて決まります。配属優先権が付かないこと自体は、合否には影響しません。
したがって、小論文を書く段階で「この研究室へ必ず入れる」と決めてしまうと、入学判断との間にずれが生じます。第一希望のテーマに強いこだわりがある人は、配属の通知時期と入学意思の回答時期を並べ、希望どおりでなかった場合にどう考えるかも整理しておくと、合格後の判断が落ち着いてできます。この配属方法は情報科学領域の説明であり、他領域へそのまま当てはめるものではありません。
見学では、研究の進め方を具体的に聞く
研究室見学は、研究テーマの名前を知るだけでなく、どんな問いをどんな方法で扱っているのかを理解する機会です。見学前に研究室の紹介や最近の発表を読み、分からなかった点を絞ると、教員や学生の説明を自分の進路につなげやすくなります。実験中心なのか、解析や理論が中心なのか、分野を変える場合にどの基礎を補う必要があるのかも、聞いてみたい点です。
情報科学領域のQ&Aは、見学したこと自体が直接合否に有利になるわけではないと説明しています。訪問回数を増やすために予定を埋めるより、得られた理解を小論文と研究室選びに反映する使い方が合っています。連絡の準備は研究室訪問メールの書き方で確認し、NAIST側の見学窓口や案内がある場合は、その手順に沿って申し込みます。
受験までの予定は、出願・英語・面接を分けて組む
NAISTの準備では、小論文を書き終える日と面接の完成日を同じ日にしないことが助けになります。出願後にも研究の説明や数学を練習する時間が必要だからです。最初に公式日程を並べ、書類の準備と受け答えの練習を行き来できる予定を作ります。

| 2027年春学期入学の試験回 | 出願期間 | 選抜期間 | 2026年10月2日時点の状況 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 2026年6月8〜10日 | 2026年7月6〜11日 | 終了 |
| 第2回 | 2026年9月28〜30日 | 2026年10月27〜29日 | 出願終了。出願済みの人は面接準備へ |
| 第3回 | 2027年2月8〜10日 | 2027年3月10日 | これから出願を考える場合の次の回 |
出典は公式の入試日程です。第3回は2027年秋学期第1回も兼ねます。外国籍で永住者・特別永住者以外の人には、出願開始日の2か月前までに行う手続きもあるため、上の出願期間だけを準備開始日にしないようにします。
出願前は、書類をそろえながら説明を試す
研究室と試験区分の候補が決まったら、小論文を一度書き、誰かに短く説明してみます。相手が理解しにくかった箇所は、文章の問題なのか、自分の理解が足りないのかを分けて直します。小論文の完成まで口頭練習を待つ必要はなく、書きながら話す方が、説明に必要な前提を見つけやすくなります。
この時期に、成績証明書や卒業見込証明書の取得方法、英語スコアの提出方法も確認します。学習計画には「数学を勉強する」だけでなく、「この範囲の基本問題を説明できる」「研究目的を専門外の人へ話せる」といった、できるようになりたい行動を書くと進み具合が分かります。何週間で完成するかは履修経験によって違うため、まず一度試してから必要な時間を見積もるのが現実的です。
出願後は、書いた内容の理解とオンライン環境を整える
出願後は、提出した小論文を起点に、用語の定義、方法を選んだ理由、結果の解釈を確かめます。新しい専門用語を次々に増やすより、すでに書いた内容について質問されても説明できる範囲を広げる段階です。情報科学区分なら小論文の写しを持ち込めないため、文章を丸暗記するのではなく、研究の流れを資料なしで話す練習を組み込みます。
オンライン面接では、声や図が相手に届く環境も説明の一部になります。普段の会話では問題ないマイクでも、紙を見せたり式を書いたりすると声が遠くなることがあります。本番で使う機器と場所をそろえ、相手からどう見え、どう聞こえるかを試しておくと、当日は考えることに集中しやすくなります。大学が指定する事前接続確認の日時と技術的要件は、受験票や出願サイトの案内に従います。
NAISTの難易度についてよくある質問
受験を決めるときに迷いやすい点を、試験制度と準備の両面からまとめます。
筆記試験がないなら、数学や専門科目の勉強は不要ですか?
不要ではありません。情報科学区分では数学を口頭で問われ、バイオ・物質でも自分の研究や出身分野に関係する基礎知識が問われます。解答用紙へ書く試験が中心でないことと、学力を確認しないことは別です。
文系や別分野からでも受験できますか?
大学の方針は出身専攻だけで対象を限定していません。ただし、出願資格に該当することと、選んだ区分の質問に対応できることはそれぞれ必要です。分野を変えるなら、自分の学習経験をどう研究につなげるかと、不足する基礎を何から補うかを整理すると準備を進めやすくなります。
TOEICが高ければ合格できますか?
英語だけで合否は決まりません。現行要項では面接や小論文、成績証明書なども含めて判断します。スコアを伸ばす計画と、専門知識・研究説明の準備を並行させる考え方になります。
第1回に間に合わなかったら、受験できませんか?
2027年春学期入学には第2回・第3回もありますが、2026年10月2日時点では第2回の出願も終了しています。今から新たに出願する場合は第3回の日程と、自分に適用される事前手続きの期限を確認する流れです。後の回が受かりやすいという意味ではありません。
まとめ:自分の区分で説明できることを増やす
奈良先端科学技術大学院大学の難易度は、出身大学名や一つの倍率から決めるより、受験区分と現在の準備の差を見て考える方が具体的です。情報科学では数学と研究の口頭説明、バイオ・物質では小論文をもとにした発表と専門知識の確認が中心になります。
まず希望する研究と試験区分を結びつけ、現行要項の範囲で一度説明を試してみる。その結果をもとに、小論文、基礎知識、英語、オンライン面接の予定を組むと、自分にとって難しい部分と、今取り組むことが見えてきます。
