新規事業ケースは、思いついたアイデアの面白さを競う問題ではありません。顧客の未解決課題を起点に、解決策、市場、収益性、自社の実行能力、リスク、最初の検証を一本の事業仮説としてつなぎ、限られた情報の中で「どの条件なら進めるか」を提案する問題です。最初から成功を言い切るのではなく、重要な不確実性を特定し、小さく確かめる順番まで示すことが大切です。
- この記事でわかること
- 読者の前提
- 結論
- 新規事業ケースは「投資判断に必要な仮説をそろえる」問題
- ステップ1:目的、対象、期間、成功条件を確認する
- ステップ2:優先顧客と利用場面を絞る
- ステップ3:未解決課題と代替手段を確かめる
- ステップ4:解決策と提供価値を一文で定義する
- ステップ5:市場規模と獲得可能な範囲を見積もる
- ステップ6:収益モデルと単位採算を計算する
- ステップ7:自社能力、競争優位、主要リスクを確認する
- ステップ8:最初の検証と進む条件・やめる条件を決める
- 架空例:家具メーカーAの法人向け月額運用サービス
- 売上向上・利益改善・市場規模推定との違い
- 60秒で提案をまとめる型
- よくある落とし穴
- 30分で練習する方法
- 今日できるアクション
- FAQ
- ESCAPE Consulting Careerでできること
この記事でわかること
- 新規事業ケースを8ステップで進める順番
- 顧客、課題、解決策を混同せずに整理する方法
- 市場規模と実際に獲得できる顧客を分ける考え方
- 売上だけでなく、単位採算と固定費まで確認する方法
- 自社の強みを「持っている資産」ではなく「勝てる理由」へ変える方法
- 架空例を使って、事業仮説から検証計画までまとめる方法
- 売上向上、利益改善、市場規模推定との違い
- よくある失敗と、30分でできる練習方法
読者の前提
この記事は、ケース面接の基本を学び、新規事業や新サービスの検討を一人で構造化したい就活生・転職希望者を想定しています。業界別の正解、特定企業の実際の出題、非公開の評価基準は扱いません。ここで紹介する8ステップは、公開情報と一般的な事業検討の論点をもとにESCAPE Consulting Careerが練習用に整理したものであり、特定ファームの公式解法ではありません。
ケース面接そのものが初めてなら、先にケース面接ロードマップとケース面接で最初に身につけるべき考え方を確認してください。新規事業ケースでは、決められたフレームを読み上げるより、目的と追加情報に合わせて論点を更新する姿勢が重要です。
結論
新規事業ケースは、次の8ステップで進めると整理しやすくなります。
- 目的、対象、期間、成功条件を確認する
- 優先顧客と利用場面を絞る
- 顧客の未解決課題と代替手段を確かめる
- 解決策と提供価値を一文で定義する
- 市場規模と獲得可能な範囲を見積もる
- 収益モデルと単位採算を計算する
- 自社能力、リスク、競争優位を確認する
- 最初の検証と進む条件・やめる条件を決める
ポイントは、八つの箱を独立に埋めないことです。「誰の、どの課題を、なぜこの解決策で解き、その対価をどう得て、自社がどう届け、何を検証すれば投資判断できるか」という因果でつなぎます。市場が大きくても顧客課題が弱ければ売れません。顧客が喜んでも、獲得費や提供費が高すぎれば続きません。自社資産があっても、競合が簡単に模倣できれば優位性にはなりません。

新規事業ケースは「投資判断に必要な仮説をそろえる」問題
新規事業ケースの問いは、「新しい事業を考えてください」「この市場へ参入すべきですか」「既存資産を使った新サービスを提案してください」など、幅広い形で出されます。しかし、共通して必要なのはアイデア集ではなく、投資判断に必要な仮説です。
最低限、次の四つを区別します。
| 仮説 | 答える問い | 確認できないと起きること |
|---|---|---|
| 顧客価値仮説 | 誰のどの課題が、今より良く解けるか | 使われない |
| 事業性仮説 | 顧客は払い、採算が合うか | 売れても赤字になる |
| 実行仮説 | 自社は必要な品質と速度で届けられるか | 立ち上がらない |
| 検証仮説 | 何を確かめれば次の投資を判断できるか | 調査だけが続く |
新規事業では、情報が不足しているのが通常です。だからこそ、すべてを精密に推定するより、「結論を変えうる不確実性はどれか」を選びます。顧客の課題が本当に強いか、支払意思があるか、提供原価が下がるか、必要な販路を確保できるか。これらのうち一つが崩れると事業案全体が成立しないなら、そこが最優先の検証論点です。
ステップ1:目的、対象、期間、成功条件を確認する
最初に、何のための新規事業かを確認します。売上成長、利益源の分散、既存顧客の維持、遊休資産の活用、社会課題への対応では、選ぶ案も評価指標も変わります。
確認したい項目は次の通りです。
- 誰が意思決定者か
- 新規事業を検討する背景は何か
- 対象地域、顧客、商品領域に制約があるか
- いつまでに、どの規模を目指すか
- 売上、利益、成長率、戦略的価値のどれを重視するか
- 初期投資、ブランド、法規制、既存事業への影響に制約があるか
- 自社のどの資産を使う前提か、それとも白紙から考えてよいか
たとえば「3年後に売上10億円」なら、市場の大きさと獲得速度が重要です。「1年以内に黒字化」なら、初期投資と固定費を抑え、既存販路を使える案が有利です。「既存顧客の解約を減らしたい」なら、新規顧客だけでなく既存サービスとの相乗効果を見ます。
悪い確認は、聞いた項目をそのままメモして終わることです。良い確認は、目的を評価軸へ変換します。
今回は、3年後の売上だけでなく、2年目までの単年度黒字化を成功条件と置きます。そのため、市場規模に加えて、顧客獲得速度、単位採算、初期固定費を優先して確認します。
この一文があると、その後の分析が目的に沿っているかを常に確認できます。
ステップ2:優先顧客と利用場面を絞る
次に「誰向けか」を具体化します。顧客を広く置きすぎると、課題も解決策も価格も曖昧になります。「法人」「若者」「中小企業」だけでは足りません。企業規模、業種、利用場面、意思決定者、利用者、購入頻度などで絞ります。
顧客を分ける切り口には、次があります。
- 属性:年齢、企業規模、業種、地域
- 行動:利用頻度、購入経路、現在の代替手段
- 課題:時間不足、品質のばらつき、手間、損失、心理的不安
- 購買:予算保有者、決裁者、利用者、影響者
- 導入条件:既存設備、契約期間、データ連携、法規制
BtoBでは、利用者と支払者が違う点に注意します。現場担当者が便利だと感じても、決裁者が費用対効果を認めなければ導入されません。反対に、経営者がコスト削減を期待しても、現場の作業が増えれば定着しません。
優先顧客は、課題の強さだけでなく、到達しやすさと採算も含めて選びます。
| 評価軸 | 確認すること |
|---|---|
| 課題の強さ | 頻度、損失、緊急度が高いか |
| 支払意思 | 既存支出があるか、効果を金額化できるか |
| 到達可能性 | 自社販路、提携先、広告で接点を持てるか |
| 提供可能性 | 品質、地域、供給量の条件を満たせるか |
| 拡張性 | 類似顧客や隣接用途へ広げられるか |
「課題が大きい最大顧客」ではなく、「最初に学びやすく、成立条件を確かめやすい顧客」を選ぶのが初期検証では有効です。
ステップ3:未解決課題と代替手段を確かめる
顧客を決めたら、課題を一文で定義します。課題は「欲しい機能」ではなく、「達成したいことを妨げている状態」です。
たとえば「家具のサブスクリプションが欲しい」は解決策です。課題は「人員増減や移転のたびに、会議室備品の選定・購入・廃棄が発生し、総務担当者の工数と在庫損失が大きい」のように表します。
課題を確認する際は、次の五つを見ます。
- いつ、どの場面で起きるか
- どのくらいの頻度で起きるか
- 時間、費用、売上、品質にどの程度影響するか
- 現在はどう対処しているか
- 現在の方法の何が不満か
代替手段を必ず確認してください。競合は同じ商品を売る企業だけではありません。内製、Excel、電話、既存取引先、何もしないことも代替です。顧客が現状維持を選んでいるなら、「新サービスの方が便利」だけでなく、切り替え費用、学習負担、契約リスクを上回る価値が必要です。
NG例は「中小企業は人手不足なので支援サービスに需要がある」です。対象が広く、困る場面も損失も代替手段も不明です。改善例は「拠点移転や増員が年1回以上ある従業員50〜300人企業の総務担当者は、会議室備品の追加・回収・保管を複数業者へ依頼しており、調整工数と不要在庫が発生している」のように、顧客、場面、現状、損失をつなぎます。
ステップ4:解決策と提供価値を一文で定義する
課題が定まったら、解決策を作ります。先に機能を増やすのではなく、顧客が得る変化を定義します。
基本形は次です。
対象顧客に対し、利用場面で起きる課題を、既存の代替手段よりも優れた方法で解き、測定可能な価値を提供する。
解決策は、次の四層で考えると整理しやすくなります。
- 中核価値:顧客の何が改善するか
- 提供物:商品、サービス、情報、保証
- 利用体験:申込、導入、利用、変更、解約
- 運用裏側:調達、在庫、配送、保守、データ、パートナー
たとえば「月額制オフィス家具」だけでは、顧客価値が分かりません。「会議室備品の選定、設置、交換、回収を一つの窓口で行い、増員や移転に伴う総務工数と不要在庫を減らす」と言えば、課題と価値がつながります。
この段階で機能を盛りすぎないことも重要です。予約アプリ、AI提案、保険、配送追跡などを全部入れると、何が価値を生むのか分からなくなります。初期版は、最重要課題を解く最低限の提供物に絞ります。追加機能は、顧客が使わない理由を解消する場合に限って足します。
ステップ5:市場規模と獲得可能な範囲を見積もる
市場規模は「大きそう」という印象ではなく、顧客数と単価へ分けます。ただし、新規事業の判断では、理論上の市場全体より、初期の販路と提供能力で到達できる範囲が重要です。
三つの層に分けます。
| 層 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 全体市場 | 課題を持ちうる顧客全体 | 国内の対象規模企業 |
| 対象市場 | 地域、業種、導入条件を満たす顧客 | 自社配送圏内で移転・増員頻度が高い企業 |
| 獲得可能範囲 | 販路、営業人数、供給能力で現実に取れる顧客 | 初年度に接触・提案・導入できる企業 |
計算は、顧客数×年間単価を基本にします。
年間売上 = 対象顧客数 × 認知率 × 商談化率 × 成約率 × 年間単価
これは市場の将来を言い当てる式ではありません。仮定を見えるようにし、どの変数が結論を左右するかを確認するための式です。顧客数が多くても営業1人が月5社しか提案できないなら、初年度売上は営業能力で制約されます。逆に市場が小さく見えても、単価、継続率、隣接顧客への拡張余地があれば成立することがあります。
市場規模の作り方は市場規模推定のやり方で詳しく説明しています。新規事業ケースでは、その推定を「最初に誰へどう届けるか」まで落とすことが差になります。
ステップ6:収益モデルと単位採算を計算する
次に、顧客価値が事業として続くかを確認します。売上規模だけでなく、一顧客、一契約、一利用当たりの採算を計算します。
最低限、次を置きます。
- 価格と課金単位
- 購入・利用頻度
- 継続期間または解約率
- 一顧客当たりの変動費
- 顧客獲得に必要な費用
- 導入、保守、返品、サポートの費用
- システム、人員、倉庫などの固定費
- 初期投資と回収期間
単位採算の基本形は次です。
一顧客当たり限界利益 = 売上 - 調達・配送・運用などの変動費 - 顧客獲得や初期導入に直接かかる費用
継続型サービスなら、初月だけでなく契約期間全体を見ます。初期導入費が高くても長く継続すれば回収できます。一方、月次粗利が高くても解約が早ければ、営業費を回収できません。
感度分析も入れます。価格、成約率、継続率、変動費のうち、どれが少し変わると赤字になるかを確認します。強い提案は、中心値だけでなく「保守ケースでも固定費を回収できるか」「どの条件なら拡大を止めるか」を示します。
売上ドライバーの分解は売上向上ケースの解き方、概算の置き方はフェルミ推定の解き方も参考になります。ただし、新規事業では過去実績が少ないため、仮定の精度より検証可能性を重視します。
ステップ7:自社能力、競争優位、主要リスクを確認する
良い市場と良い商品があっても、自社が勝てるとは限りません。ここでは、自社が持つ資産を列挙するのではなく、その資産が顧客価値、低コスト、速い立ち上げ、信頼、学習速度のどれにつながるかを確認します。
確認する能力は次の通りです。
- 顧客接点:既存顧客、販売店、営業担当、ブランド
- 供給能力:調達、製造、在庫、配送、保守
- 知識・データ:顧客理解、利用データ、専門人材
- 技術:システム、設計、品質管理、知的財産
- 組織:意思決定速度、専任人材、評価制度
- パートナー:不足能力を補う提携先
「既存顧客がいるから売れる」は飛躍です。既存顧客との関係が、新しい購買担当者へのアクセス、営業費の低下、導入時の信頼のどれに効くかを説明します。「工場があるから作れる」も同じで、少量多品種、短納期、回収・再整備に対応できるかまで見ます。
競争優位は、価値と模倣困難性で確認します。
| 資産 | 顧客価値への接続 | 競合がまねしにくい理由 |
|---|---|---|
| 既存営業網 | 初期顧客へ早く到達できる | 長期関係と担当者知識が必要 |
| 配送・保守網 | 交換や回収を短時間で行える | 地域密度と運用ノウハウが必要 |
| 利用データ | 顧客別の構成提案を改善できる | 継続利用で学習が蓄積する |
同時に、主要リスクを整理します。
- 顧客リスク:課題が弱い、支払意思がない、利用者が定着しない
- 市場リスク:対象顧客が少ない、成長しない、獲得速度が遅い
- 収益リスク:価格が下がる、原価が高い、解約が早い
- 実行リスク:人材、供給、品質、システムが不足する
- 競争リスク:模倣、代替、価格競争が起きる
- 法務・信用リスク:規制、契約、個人情報、安全、ブランド毀損
- 既存事業リスク:カニバリゼーション、営業の優先順位衝突

リスクを挙げて終わらず、回避策と確認方法をつなぎます。「解約率が高い可能性」なら、長期契約で隠すのではなく、短期試験で利用頻度、継続意向、解約理由を測ります。「配送品質が不安」なら、対象地域と商品点数を絞り、納期遵守率と破損率を確認します。
ステップ8:最初の検証と進む条件・やめる条件を決める
最後に、事業案を検証計画へ変えます。新規事業の提案で強いのは、「始めるべきです」と言い切る回答ではなく、「この仮説を、この方法で、この基準まで確かめられれば拡大する」という条件つきの提案です。
検証の順番は、失敗したときに事業案全体が崩れる仮説から決めます。
- 顧客は課題を強く認識しているか
- 提案した価値で行動が変わるか
- 実際に対価を払うか
- 必要な品質で提供できるか
- 一顧客当たり採算が合うか
- 同じ方法で顧客を増やせるか
アンケートの「興味があります」だけでは支払意思を確認できません。面談、予約、試用、見積受諾、有料パイロットなど、実際の行動に近い証拠ほど強くなります。ただし、最初から大規模システムや全国物流を作る必要はありません。手作業や限定地域でも、顧客価値と採算の核心を確かめられる設計にします。
検証計画には、次の五点を入れます。
- 対象:誰に試すか
- 仮説:何が成立すると考えているか
- 方法:どの提供物と運用で試すか
- 指標:利用、支払、継続、品質、採算の何を見るか
- 判断:どの水準なら拡大、修正、停止するか
停止条件を先に置くと、都合のよい数字だけで継続するのを避けられます。たとえば「有料転換率が基準未満」「一顧客当たり提供工数が想定を超える」「3回利用後も継続意向が改善しない」などです。数値はケース内の情報か明示した仮定に合わせて置き、企業の公式基準のように断定しません。
架空例:家具メーカーAの法人向け月額運用サービス
ここからは、完全な架空例で8ステップをつなぎます。家具メーカーA、顧客数、価格、費用、成約率、継続率はすべて説明用の仮定であり、市場事実ではありません。
1. 目的と成功条件
家具メーカーAは、従来の一括販売だけでなく、継続収益を持つ新規事業を検討しています。対象は国内、3年後に年間売上5億円、2年目の単年度黒字化を目指すとします。初期投資を抑え、既存の法人営業と配送網を活用できることも条件です。
ここから、評価軸を「顧客課題の強さ」「初期販路」「一顧客当たり採算」「固定費」「3年での拡張性」に置きます。
2. 優先顧客
優先顧客を、従業員50〜300人、複数拠点を持ち、増員・移転・レイアウト変更が年1回以上ある企業と仮定します。利用者は従業員、運用担当は総務、決裁者は管理部門責任者です。
大企業は契約規模が大きい一方、入札、セキュリティ、全国対応の要件が重い可能性があります。小規模企業は意思決定が速い一方、単価が低くなりやすい。最初は、既存営業が接点を持ち、一定の単価と導入速度を両立できる中規模企業へ絞ります。
3. 顧客課題と代替手段
課題は次のように置きます。
増員や拠点変更のたびに、総務担当者が会議室備品の選定、購入、設置、保管、廃棄を別々に手配し、調整工数と不要在庫が発生している。
現在の代替手段は、新品購入、中古業者、レンタル、社内保管、既存家具の使い回しです。したがって、新サービスは「月額だから安い」だけでは不十分です。変更の速さ、一つの窓口、回収・再整備、予算平準化のどれが最も価値になるかを顧客面談で確かめます。
4. 解決策
解決策を「会議室備品の選定、設置、交換、回収を月額でまとめ、増員や移転時の総務工数と不要在庫を減らす法人向け運用サービス」と定義します。
初期版は、机、椅子、モニター台など対象商品を限定し、既存配送圏内だけで提供します。アプリの高度化より、見積、設置、交換、回収が本当に一つの窓口で完了するかを優先します。
5. 市場と獲得可能範囲
既存営業圏に条件を満たす企業が2,000社あり、初年度に営業が接触できるのは600社、商談化率30%、有料パイロット成約率20%と仮定します。
初年度契約数 = 600社 × 30% × 20% = 36社
月額8万円なら、36社が12か月利用した単純年換算売上は3,456万円です。ただし、契約開始月が分散するため、初年度実売上は年換算より小さくなります。ケースで開始時期の情報がなければ、その点を明示し、年換算と実現見込みを混同しません。
3年後に年5億円を目指すには、月額8万円だけなら約521契約が必要です。
5億円 ÷ 96万円/年 ≒ 521契約
対象2,000社の約26%に当たるため、単一地域・単一プランだけで達成するには高い獲得率です。地域拡大、上位プラン、対象商品の追加、既存契約からの紹介など、拡張経路を検討する必要があります。この逆算により、「市場がある」から「目標へ届く仕組みがある」へ論点を進められます。
6. 収益モデルと単位採算
一契約当たり月額8万円、月間の配送・保守・再整備などの変動費を3万5,000円、初期設置と営業の直接費を25万円と仮定します。
初年度売上 = 8万円 × 12か月 = 96万円 初年度変動費 = 3万5,000円 × 12か月 + 25万円 = 67万円 初年度限界利益 = 96万円 - 67万円 = 29万円
初年度36社なら、単純年換算の限界利益は1,044万円です。一方、専任チーム、システム、在庫拠点などの固定費が年間2,500万円なら、初年度契約数だけでは固定費を回収できません。
2年目以降、初期設置費が再発せず、月次変動費が同じなら、一契約当たり年間限界利益は54万円です。
96万円 - 42万円 = 54万円
年間固定費2,500万円の回収には、単純計算で約47契約が必要です。実際には解約、追加営業費、設備更新、未稼働在庫を加味しますが、少なくとも「初年度は検証投資、2年目は50契約前後の継続が黒字化の一つの目安」という仮説を置けます。
7. 実行能力とリスク
家具メーカーAの既存法人営業、配送、修理拠点は、顧客接点と提供能力に使える可能性があります。ただし、販売型と月額運用型では業務が異なります。
- 営業評価が一括売上中心だと、新サービスを提案しない可能性
- 回収品の検品、再整備、在庫配置が新たに必要
- 交換頻度が高いと配送費が想定を超える可能性
- 顧客ごとの特注が増えると標準化できない可能性
- 既存販売を置き換え、全社利益が下がる可能性
したがって、既存資産は自動的な強みではありません。限定商品、交換回数、配送地域、最低契約期間を設計し、営業と運用の負荷を測ります。
8. 検証と最終提案
最初の検証は、既存顧客20社への課題面談、うち5社への有料パイロット提案、3社程度での3か月運用とします。これは公式基準ではなく、ケース練習用の仮定です。
見る指標は次です。
- 面談で同じ課題が繰り返し確認できるか
- 無料の興味ではなく、有料提案を受け入れるか
- 導入と交換に必要な総務工数が減るか
- 月間変動費3万5,000円以内で運用できるか
- 交換頻度、破損率、問い合わせ工数が想定内か
- 3か月後に継続意思と追加拠点への拡大意思があるか
最終提案は次のようにまとめます。
現時点では全国展開ではなく、既存営業圏の中規模企業向けに限定パイロットを行うべきです。増員・移転時の調整工数と不要在庫という課題に対し、既存営業・配送網を使える可能性があります。一方、初年度36社では固定費を回収できず、3年後目標には500契約超または単価・提供範囲の拡張が必要です。まず20社面談と5社提案、3社運用で、支払意思、月次変動費、継続意向を確認します。単位採算と継続条件を満たせば対象地域を広げ、満たさなければ価格、商品範囲、運用方法を修正します。
この結論は、魅力だけでなく、数字、弱点、次の行動まで含んでいます。
売上向上・利益改善・市場規模推定との違い
新規事業ケースは、既存事業の改善問題と論点が重なりますが、出発点と不確実性が違います。
| ケース | 主な問い | 最初に見るもの | 新規事業との違い |
|---|---|---|---|
| 市場規模推定 | 市場はどのくらいか | 境界、顧客数、頻度、単価 | 市場規模だけでは顧客価値や実行性を判断しない |
| 売上向上 | 既存売上をどう伸ばすか | 顧客数、頻度、単価、チャネル | 既存顧客・商品・実績がある |
| 利益改善 | 既存利益をどう増やすか | 売上、変動費、固定費 | 現在の損益構造から原因を診断する |
| 新規事業 | 未確立の事業へ投資すべきか | 顧客課題、解決策、採算、能力、検証 | 過去実績が少なく、成立条件を仮説で置く |
新規事業でも市場規模、売上、利益を計算します。ただし、それらを一つの事業仮説へつなぎ、「何が未確認か」を明示します。精密な数字を作ることより、顧客価値と単位採算を壊す仮定を見つけることが重要です。
60秒で提案をまとめる型
分析の最後は、次の順でまとめます。
- 結論:進める、条件つきで進める、見送る
- 対象:最初の顧客と利用場面
- 価値:解く課題と解決策
- 事業性:市場、単価、単位採算、目標への距離
- 勝ち筋:自社能力と競争優位
- リスク:結論を変える不確実性
- 次の一手:検証方法、指標、拡大・停止条件
「市場が大きく、自社の強みもあるため参入すべきです」では弱い回答です。「既存営業圏の中規模企業へ限定して有料検証する。課題と支払意思は見込めるが、固定費回収には継続契約数が必要。単位採算と継続意向を確認してから地域拡大を判断する」と言えば、判断と根拠がつながります。
よくある落とし穴
1. いきなりアイデアを列挙する
アイデアを出す前に、目的、顧客、課題を定義します。顧客課題が違えば、同じ技術や資産でも最適な事業案は変わります。
2. 市場が大きいから参入すると結論づける
大きな市場でも、顧客へ届かない、支払意思がない、競争が激しい、提供能力がない場合があります。対象市場と獲得可能範囲まで落とします。
3. 顧客と利用者と決裁者を混同する
BtoBでは特に、困る人、使う人、払う人が違います。それぞれの価値と導入障壁を確認します。
4. 解決策を課題として話す
「アプリがない」「サブスクがない」は課題ではありません。顧客が達成したいこと、現在の手間や損失、代替手段の不足を言語化します。
5. 売上だけで事業性を判断する
価格、継続率、変動費、獲得費、導入費、固定費を確認します。売上が増えても、一顧客当たり赤字なら拡大するほど損失が増えます。
6. 自社の強みを資産名で終える
ブランド、顧客基盤、工場、データが、顧客価値や低コスト、速度へどうつながるかを説明します。使えない資産は強みではありません。
7. 競合を同業他社だけにする
内製、既存取引先、汎用品、Excel、何もしないことも代替です。顧客が切り替える理由と負担を確認します。
8. リスクを最後に付け足す
リスクは事業案の成立条件です。顧客、採算、供給、競争、法務、既存事業への影響を各ステップで確認します。
9. 精密な数字を作りすぎる
情報がない中で小数点まで計算しても信頼性は上がりません。仮定を明示し、幅を置き、どの数字を最初に検証するかを示します。
10. 検証を「追加調査」で終える
調査対象、仮説、方法、指標、判断基準まで決めます。顧客の発言だけでなく、予約、有料利用、継続などの行動で確かめます。
11. 面接官の追加情報で構造を更新しない
ケース面接は対話です。新しいデータで重要論点が変わったら、最初の枠に固執せず、「この情報から優先論点を採算から供給能力へ移します」と説明して更新します。ケース面接で質問すべきことも参考にしてください。
30分で練習する方法
30分は企業の公式時間ではなく、自主練習の目安です。
| 時間 | 作業 | 成果物 |
|---|---|---|
| 0〜3分 | 目的と成功条件を確認 | 評価軸3〜5個 |
| 3〜7分 | 顧客と課題を定義 | 顧客・場面・損失・代替 |
| 7〜11分 | 解決策を一文化 | 価値提案と初期版 |
| 11〜16分 | 市場と獲得範囲を概算 | 顧客数×獲得率×単価 |
| 16〜21分 | 単位採算を計算 | 一顧客売上・変動費・限界利益 |
| 21〜25分 | 能力とリスクを確認 | 勝ち筋と致命的仮説 |
| 25〜28分 | 検証計画を作る | 対象・方法・指標・判断 |
| 28〜30分 | 60秒で提案 | 結論・根拠・リスク・次の一手 |
練習後は、ケース面接のフィードバックシートで振り返ります。「顧客課題と解決策がつながったか」「市場と獲得可能範囲を分けたか」「単位採算を見たか」「最重要仮説を検証へ落としたか」を確認してください。

今日できるアクション
身近な企業を一つ選び、次の八行だけを書いてください。
- 新規事業の目的と成功条件
- 最初に狙う顧客と利用場面
- 顧客の未解決課題と現在の代替
- 最小の解決策と提供価値
- 対象顧客数、獲得率、年間単価
- 一顧客当たり売上、変動費、限界利益
- 自社の勝ち筋と最大リスク
- 最初の検証、拡大条件、停止条件
その後、最も不確かな一行へ丸を付けます。次の練習では、その仮定を確かめるために面接官へ何を聞くか、どんなデータが必要かまで書きます。ロジックツリーの作り方を使い、課題、原因、判断基準を分けて整理するのも有効です。
FAQ
Q1. 新規事業ケースでは、最初に市場規模を計算すべきですか
必ずしも最初ではありません。まず目的、顧客、課題を確認し、市場規模が結論を左右する段階で計算します。顧客課題が弱い、提供できない、単位採算が合わない場合、市場が大きくても事業は成立しません。
Q2. アイデアは何個出せばよいですか
固定の正解はありません。数を増やすより、顧客課題との適合、事業性、自社能力、リスクで比較できる候補を出します。時間が短ければ、一つの有力案を深く検討し、代替案を一つ添える方が説明しやすいこともあります。
Q3. 3Cや4Pなどのフレームワークを使うべきですか
目的に合えば使えますが、名称を言うこと自体に価値はありません。顧客課題、代替、自社能力、価格、販路など、意思決定に必要な論点を漏れなく考える補助として使い、ケース固有の条件に合わせて並べ替えます。
Q4. 市場データがない場合はどうしますか
顧客数、利用頻度、単価へ分けて仮定を置きます。仮定の根拠と幅を明示し、結論がどの変数に敏感かを確認します。面接官へ追加情報を求め、得られなければ推定を進めます。
Q5. 新規事業は黒字になるまで時間がかかるので、採算を見なくてもよいですか
初期赤字を許容する場合でも、長期的に一顧客当たり利益が出る構造か、固定費を回収できる規模へ到達できるかは確認します。赤字期間を正当化するには、学習、成長、将来の採算へつながる説明が必要です。
Q6. 自社とのシナジーはどう評価しますか
既存顧客への到達、調達・配送コスト、信頼、データ、技術、販売速度など、具体的な価値へ変換します。同時に、営業の競合、既存商品の食い合い、ブランド毀損など負の影響も確認します。
Q7. リスクが多いときは見送るべきですか
リスクの数ではなく、影響、発生可能性、回避可能性、検証費用で優先順位をつけます。低コストで確かめられるなら条件つきで進められます。規制違反や重大な安全問題など、受容できないリスクは早期に止めます。
Q8. ケースの最後に「参入すべき」と断定する必要がありますか
断定より、条件つきの判断が有効です。「この顧客へ限定して検証し、支払意思と単位採算が基準を満たせば拡大する」のように、現時点の結論、根拠、不確実性、次の一手を示します。
ESCAPE Consulting Careerでできること
ESCAPE Consulting Careerでは、ケース面接を解法暗記ではなく、目的確認、構造化、仮定、計算、提案、振り返りをつなぐ練習として扱います。まずケース面接ロードマップで全体像を確認し、フェルミ推定、市場規模、売上向上、質問、フィードバックの記事を組み合わせてください。
一人で練習すると、顧客課題と解決策の飛躍や、都合のよい仮定に気づきにくくなります。回答を八行にまとめたうえで、第三者に「結論を変える仮定は何か」「最初に何を検証するか」を質問してもらうと、事業仮説の弱点が見えやすくなります。


